部屋の前を通りかかったらとバッシュの声が聞こえた。

どうせいつものような会話だろうと思って気にも留めずヴァンは開いていた扉の前を横切っていった。
しかし何かしらの違和感を感じて一歩後ろへ後戻りしてみる。

まるで覗き見るように2人を見ればその違和感の理由が分った。

「いつもと、、、、逆だ」







As they sow,







ヴァンは目の前の光景に頭を捻りながらバッシュの口調との返答を耳にする。
その状況からして非があることを認めようとしていないのはの方に思えた。

「―・・あ」

俯いていた顔を僅かにあげたの助けを求めるような目線がヴァンに浴びせられる。

「やべ。。。」

このいざこざに巻き込まれれば間違いなくの話の盾にされると思ったヴァンは
ヘヘッと笑うと直ぐにその場から姿を消した。

「薄情者ッ!」

と、口にしたの前に腕組をしたバッシュが立ちはだかる。

「本当に薄情なのはヴァンか?それとも君か?」

「・・・・・」

合った目線をすぐに逸らし、また黙る。
さっきから幾ら自分の意見を主張しても聞いてはくれないのだ。
いや多分私が謝ろうとしないからか。。。
悪気はなかったのだから謝るのもおかしい。かといってこのままで居るのも困る。

「何度も言うけど本当に悪気は無いのよ」

「ああ、何度も聞いた」

「感極まったのよ」

「それも聞いた」

「じゃあ十分だと思わない?」

「人を丸め込むには言葉が率直過ぎる。その気もないのだから言ったらどうだ?」

バッシュがそういうと渋ったように口を開く

「・・・・・だって。ノノが」

「ノノ・・?」

「私、何か手伝いをしたいって前からバルフレアに何度も頼んでいたの。
 でも知識がないんだから邪魔になるだけだって言われて」

「それで?」

「だったらシュトラールの掃除をしようって思ったのよ」

 同調を得ようとにこりと微笑みバッシュを見て話しを続ける。

「それで掃除とか自分が出来る事は全部終ってしまったから邪魔にならないように帰ろうとしたら
ノノが帰り際に「ありがとうクポ」って上目遣いで言ってくるものだからすっごく嬉しくて!」

その時を思い出したのか何やら楽しそうに話し始める

「。。。そうか」

「でね丁度見てたからかもしれないのだけどバルフレアが帰ってきて、
 『俺やフランが居るときなら入ってもいい』って言ってくれたの!ほんの少しだけ認めてくれたのかなって」

「それで、感極まったという訳か?」

「そう!嬉しい事が立て続けにおきたものだから、つい」

「―・・・・・・・つい?」

「えッ、―・・・・い、え、、、、その」

『そういう事なのか』と、変な風に納得した様子のバッシュが冷ややかな目線をへと送った。

「あのね、今の―」

「ならば訊こう」

と、の弁解よりも先にバッシュが間髪入れず質問する。

「もし俺がそうしたなら君はどう思う」

「そうしたらって、、、抱きつくって事を??」

「ああ、そうだ」

「・・・・それは」

少し俯いた。それを見て自分の気持ちを理解してくれたのかとバッシュは思った。
しかしすぐさま上げられた顔には何故か笑みが浮かんでいて。

「―無いわ。バッシュがそんな事するわけないじゃない」

は意気揚々とそう答えた。
何やら自分はに悪いことはしない、出来ないという様なその言葉にバッシュは眉を顰めた。

「ならば、試してみるか」

コツンコツンと廊下から聞こえる足音をも耳にする。身を翻し扉へと歩き出したバッシュ。

「え、、、ッ!」

まさか本当にするつもりなのだろうか。
もしかしたら仲間じゃないか知れないのに。誰かも分からない人にバッシュが抱き付くなんて。
それがもし女の人なら冗談でも嫌だと本気で思う。
焦ったは椅子から立ち上がり止めようと走り出した。

「バッシュ。。!」

その足音が聞こえたのでバッシュは立ち止まる。
彼の考えでは抱きつくわけもなく、ここまでで終わる予定だったのだから。

しかし――

はそれを阻止しようと躍起になり部屋の入り口に走っていくと見えた姿に思いっきり抱きついた。
顔だけをバッシュに向けて勝利を口にする。

「ほら、出来なかったでしょ!?」

未だに抱きついた人が誰なのかは自身は知らない。




この状況で叫ばないところをみると知らない人ではないようだ。となるとアーシェやパンネロでもない。




身長的に考えればヴァンではなく触れた感覚は柔らかくないのでフランとは・・・思えな。。。。――




そこまで考えて自分の血の気が引くのを感じた


今日こんな感覚があったことを思い出しながら恐る恐る顔を上げれば、
整った顔立ちの美青年が眉をあげ楽しそうに微笑んだ。

「あ、、、、ら、、、バルフ、、レア、、さん」

「何だ、やっと俺に乗りかえる気になったか?」

「――――!!!?」

在りもしないことを口にし今の状況に油を注ぐ一言をサラリと言い放つバルフレア。
背中にゾクリと感じた寒気に振り返ることも出来ず抱きついている相手を捨てられた動物のような瞳で見つめる。
懇願するような顔でフルフルと首を横に振るが楽しそうに笑っているだけ。
こうなれば逃げてやる、とその身から離れようとすると突然肩を掴まれそのまま後ろへと思いっきり押された。

「――!!!!!!!」

とばされたの体が納まったのは一切笑ってはいないだろうバッシュの胸の中。

「何するのよ!!」

「何、じゃないだろ。身の保身ってやつだ」

落ち着いた顔してる奴に限って何を思っているか分からないものだ。
眉をあげてそういったバルフレアに一線を敷くような言葉でバッシュは例を言う。

「済まない。が迷惑をかけたみたいだな」

「別に、じゃあな」

「手間。。。。身の、、、保、身・・って。。。」

呆気にとられ呆然とするにバルフレアは軽く手をあげその場から立ち去っていった。

「は、薄情者!私はどうなるのよっ」

とその声が聞こえても答える訳もなく。

そうなったのもそうさせたのも結局お前なんだから自分で何とかしろと、
またもや被害者になったバルフレアは心の中で呟いた。




あの後がどうなったかは誰も知る由もない――――。